ユネスコ活動に関する建議及び答申の送付について
平成七年七月二五日に開催された第九七回日本ユネスコ国内委員会の議を経て、平成七年八月九日付けで左記のとおり建議及び答申が行われましたので、送付します。
記
一 ユネスコ第四次中期戦略に関連し我が国が重点的に推進すべきユネスコ活動について(建議)(文部大臣あて)
二 第二八回ユネスコ総会について(答申)(外務大臣あて)
三 我が国が第二八回ユネスコ総会においてユネスコ第四次中期戦略(一九九六―二〇〇一年)案及び一九九六―九七年事業・予算案に関して取るべき態度について(答申)(文部大臣あて)
7ユ国企第六号
平成七年八月九日
文部大臣 殿
日本ユネスコ国内委員会会長
ユネスコ第四次中期戦略に関連し我が国が重点的に推進すべきユネスコ活動について(建議)
日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコを通じた教育、科学、文化の国際交流の一層の推進を図るため、その方策について検討を重ねてまいりました。
その結果、第九七回日本ユネスコ国内委員会(平成七年七月二五日開催)において、ユネスコ第四次中期戦略に関連し我が国が重点的に推進すべきユネスコ活動について別紙の結論に達しましたので、ユネスコ活動に関する法律第六条第一項の規定に基づいて建議します。
また、本建議の外務大臣への伝達についてよろしくお取り計らい願います。
(別紙)
ユネスコ第四次中期戦略に関連し我が国が重点的に推進すべきユネスコ活動について(建議)
ユネスコは教育、科学、文化の国際交流を通じて、国際平和と人類の福祉という目的に貢献するために創設され、今年五〇周年を迎えるに至った。ユネスコは、この間、識字教育の普及、科学の発展と科学的知識の普及への貢献、文化遺産の保護、及び国際理解の推進など数多くの実績を挙げてきたが、近年の国際情勢の変化の中で、相互理解や社会の変容への対応の不十分さに根ざした問題が顕在化し、また環境問題、人口問題などの地球規模の問題が深刻化する中で、改めてユネスコの役割の重要性が増してきている。
我が国としても教育・科学・文化の交流・協力を通じて数多くのことを学ぶとともに、世界各国の人づくりと相互理解の推進に貢献するとの観点から、これまでもユネスコに対し積極的に協力してきたところであるが、ユネスコ第四次中期戦略の方向、内容を踏まえ、今後、ユネスコ活動に一層積極的に取り組む必要がある。その際、特に以下の諸点を重視すべきと考える。
よって、日本ユネスコ国内委員会は、政府がこれらに関し積極的に必要な措置を取られることを要望し、ここに建議する。
一 開発途上国の識字事業への協力
(一) アジアを中心とする開発途上国の非識字問題は極めて深刻な状況にある。ユネスコは一九九〇年の国際識字年を契機として、種々の国際的な協力事業を実施してきたが、非識字の解消に向けて事業の一層の強化・拡充が求められている。
(二) このため、次のような施策を重点的に実施すべきである。
ア ユネスコ・アジア・太平洋地域中央事務所が中心となって実施している識字事業に資するため、人的、及び財政的援助を行うこと。
イ 財団法人ユネスコ・アジア文化センターが行う識字教材や図書の共同開発及び識字教育モデル事業による教材等の普及活動を一層拡充すること。
ウ 非識字問題解決に資する遠隔教育やニューメディアを活用した新しい教育内容・方法の国際共同開発を実施すること。
エ 開発途上国の非識字問題に関する国民の理解を更に深め、その一層の協力を得るために、マスメディアや社団法人日本ユネスコ協会連盟等とも協力し、国際理解の促進の観点から広報・啓発活動を実施すること。
二 地球規模での環境問題への貢献
(一) オゾン層の保護、地球温暖化、熱帯林の保全等の地球環境問題は、人類の生存基盤に深刻な影響を与える重大問題であり、人類が英知を結集し、世界各国が協力して対処しなければならない緊急の課題である。
(二) このため、次のような施策を重点的に実施すべきである。
ア 地球規模の環境変化のメカニズムを解明するための研究を促進すること。また、地球温暖化対策、熱帯林の保全策等の当面する問題に対処するための環境保全技術に係る基礎研究を促進すること。
イ ユネスコが実績を挙げてきた政府間海洋学委員会事業、人間と生物圏計画、国際水文学計画等に更に積極的に参加し、地球環境問題の科学的解明のため各国の研究者との共同研究をより一層推進すること。
ウ 開発途上国の地球環境に関する研究者・技術者の能力育成への協力を一層促進すること。
エ 学校教育・学校外教育を通じて地球環境問題についての国民の理解を深めるとともに、そのための指導及び啓発活動を更に推進すること。
三 社会変容への対応―人文・社会科学による国際協力
(一) 近年の国際化・情報化、科学技術文明の進展、世界の政治状況・国際情勢の大きな変化は、今日の世界の各国における社会の変容をもたらしている。政治、経済、環境問題等は一か国の問題をはるかに超え、地域、地球的な広がりを持つに至っている。これらの問題への対応には、社会変容の科学的な分析に基づく理解が不可欠である。この観点から、人間の在り方そのものや人間と社会のかかわりを対象とする人文・社会科学の知見が今強く求められている。
(二) このため、次の施策を重点的に進めるべきである。
ア 人文・社会科学分野における国際的課題研究への取組、国際的なネットワークによる共同研究を促進すること。
イ ユネスコの国際社会科学研究事業であるMOST事業は、地球規模で生じている社会変容について国際共同研究を進め、これを通じて各国の社会科学研究の振興、社会科学の国際ネットワーク形成、社会科学研究者の能力育成を図るとともに、社会科学とポリシー・メーカーとの連携を強化しようというものである。我が国として、この事業への支援と積極的な参加を推進すること。
四 文化遺産保存に関する協力
(一) 文化遺産は各国、各民族の豊かな創造性の表れであり、文化的に豊かな社会を築く基礎であって、その保存、伝承は、今日の我々に課せられた後世への責務である。我が国は一九九二年の「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」の批准等を通じて、従来から取り組んできている文化遺産の保存事業の充実を図っている。一方、世界各国に所在する文化遺産の中には、内戦、天災、都市化、産業化により危険な状況に追い込まれ、計画的な保存対策が求められているものもある。
(二) このため、文化遺産の保存に関する国際協力の推進に向けて早急に取り組んでいくべきである。その際、次の点を重点的に実施すべきである。
ア 多国間・二国間の文化遺産保護事業への財政援助を拡大すること。さらに、保存科学、修復技術に関する国際共同研究及び専門家の派遣・受入れ等を通じた協力を拡充すること。
イ 文化遺産は人類共通の遺産であるとの観点から、マスメディアや財団法人ユネスコ・アジア文化センター、社団法人日本ユネスコ協会連盟等との協力による文化遺産保護事業に係る普及・広報活動の強化を図ること。
五 代表的文学作品の翻訳事業に関する協力
どのように多くの学生がNYUスターンの利点夏のプログラムに参加
(一) ユネスコ憲章に述べられている文化の「実りの多い多様性」の認識を広く普及するため、異文化間の文化交流の一環として、翻訳出版物を通じてできるだけ多くの人々が各国、各民族の代表的な文学作品に触れる機会を増やすことは極めて有効であって、ユネスコにふさわしい事業として、一層推進すべきものである。
(二) このため、文化発信及びアジア諸国との相互理解を促進する観点から、日本文学代表作品翻訳事業の推進を図るとともに、アジア諸国の代表的文学作品を通じた文化交流にも留意すべきである。
六 学術情報通信の基盤整備に関する人材養成等への協力
(一) 世界的な情報通信基盤の整備が課題となっている。特に、今後解決していくべき問題として、先進国と開発途上国の情報通信基盤の格差の緩和・解消が注目されている。ユネスコの場においても、学術分野の情報通信基盤の整備に関する人材養成を中心として、関連事業の強化・拡充を図っていく必要がある。
(二) このため、次の施策を重点的に実施すべきである。
○ アジア・太平洋地域における学術分野の情報基盤の整備に貢献するため、ユネスコの科学ネットワークと経験を活用しつつ、当該地域における専門家の能力育成のための訓練や国際共同研究等を実施すること。
七 地域レベルの国際交流の促進
(一) 我が国においては、留学生等在日外国人の数が増加の一途をたどっており、また、多様な海外体験を持つ日本人も増加している。このような状況下で、国際的に一層開かれた国家として発展するため、地域レベルでの多様な国際交流の進展が不可欠である。
(二) このため、次の施策を重点的に実施すべきである。
ア ユネスコ活動の普及、啓蒙を通じて、学校教育・学校外教育において、平和、人権、民主主義、寛容及び国際理解のための教育を含むいわゆる「国際教育」を推進すること。
イ 民間団体、特に地域のユネスコ協会等の特色ある国際交流活動の充実を図ること。
八 ユネスコ・アジア・太平洋地域中央事務所への協力強化とユネスコへの人材派遣の推進
(一) ユネスコ・アジア・太平洋地域中央事務所への協力強化
ア バンコクに所在している同事務所は、アジア・太平洋地域におけるユネスコ活動の中心的機関であり、我が国は、従来から積極的に協力・連携を図ってきたところであるが、その事業の一層の強化が求められている。
イ このため、次の施策を重点的に進めるべきである。
(ア) 同事務所の行う事業への財政援助の拡大を図ること。
(イ) 専門家の派遣・受入れ、研修ワークショップの開催等の知的・技術的協力を一層拡充すること。
(二) ユネスコへの人材派遣
ア 国際機関における邦人職員数は、極めて少ないのが実情であり、ユネスコにおいてもこの状況は同様で、国際社会に一層貢献するとの観点から、人材派遣を通じた協力が強く求められている。
イ このような状況に対処するため、次の施策を重点的に進めるべきである。
(ア) 職員、特に幹部職員になるべき人材の確保に一層努力し、その派遣に努めること。
(イ) 若手専門家の派遣制度の一層の活用を図り、ユネスコへの協力を推進するとともに、今後の国際的人材の養成に努めること。
(三) ユネスコ常駐代表部の強化
ア 我が国は、ユネスコに常駐代表部を置き、ユネスコ本部との円滑な連絡並びに他の加盟国との協議及び情報交換に努めているが、我が国のユネスコ及びその加盟国との協力を一層推進する上で、同代表部の体制を更に強化することが求められている。
イ このため、同代表部に専門性を有する職員を配置する可能性を含めた代表部の体制強化について検討を進めるべきである。
九 国連大学との連携の強化
(一) 国連大学は、ユネスコ関係の深い国際機関として、国際社会の諸課題に学術的に取り組んでいるが、特にユネスコの科学(人文・社会科学及び自然科学)分野での研究事業や訓練事業における両機関の協力関係を一層強化し、知的国際協力の活動の輪を広げていくことが重要である。また、本部施設を我が国に置く国連大学とホスト国の研究者コミュニティーとの連携・協力関係を一層強化することが望ましい。
(二) このため、次のような施策を重点的に実施すべきである。
○ ユネスコ、国連大学及び我が国の研究者コミュニティーの協力の場として本年八月開設予定の国連大学高等研究所の活動を強化すること。
7ユ国企第五号
平成七年八月九日
外務大臣 殿
日本ユネスコ国内委員会会長
第二八回ユネスコ総会について(答申)
標記のことに関し、日本ユネスコ国内委員会は左記のとおり答申します。
一 第二八回ユネスコ総会における政府代表について
今次ユネスコ総会については、二に述べるような我が国の基本的態度にかんがみ、文部大臣が出席されるとともに、次に該当する者が政府代表又はその他の資格により出席することが適当であると考える。
(一) 日本ユネスコ国内委員会委員その他の学識経験者であって、今次総会の議事に積極的に貢献できる者
(二) 日本ユネスコ国内委員会事務総長(文部省学術国際局長)
(三) 日本政府ユネスコ常駐代表
(四) その他日本政府代表団が今次総会に積極的に貢献するために必要と認められる者
二 第二八回ユネスコ総会における基本的態度について
次のような基本的態度で今次総会に臨むことが適当であると考える。
(一) 一般事項
[cir1 ] 東西冷戦の終結が平和、民主主義、人権擁護の進展の可能性をもたらす一方で、民族対立や地域紛争が激化している。また、地球温暖化、砂漠化、オゾン層の破壊等の地球的規模の環境問題が進行しつつある。さらに、科学技術、経済力における南北格差の拡大の中で、特に発展途上国では、人口問題、貧困、飢餓、非識字等の問題が深刻になっている。加えて、発展途上国、旧ソ連・東欧圏における社会経済上の混乱からの回復と改革の必要性が増大している。
[cir2 ] 今次ユネスコ総会は、このような世界の情勢の中で開催される。ユネスコは、教育、科学、文化の国際交流を通じて、国際平和と人類の福祉に貢献するという役割を積極的に果たすことが求められている。
[cir3 ] 今次総会は、第四次中期戦略(一九九六―二〇〇一年)及び一九九六―九七年事業・予算を審議、決定する重要な会議である。我が国は、事業の一層の精選・重点化、管理・運営の合理化・改善、財政の健全化等の推進のため、総会の審議に積極的に参加すべきである。
[cir4 ] 我が国は、従来からユネスコの管理・運営の改善のための取組を積極的に進めてきている。今後とも管理・運営の一層の改善が行われるよう、我が国としても積極的な提案を行うべきである。
[cir5 ] 事業面においては、前記[cir2 ]に掲げる我が国の考え方をユネスコの施策に反映させることに努めるとともに、我が国のユネスコ事業への協力の状況をはじめ、我が国が独自に推進しているユネスコ関係事業にも言及しつつ、ユネスコに対する我が国の積極的な姿勢を紹介することが必要である。
(二) 財政
ユネスコの厳しい財政状況にかんがみ、通常予算の規模が実質ゼロ成長にとどめられていることを評価する。具体的事項については、総会直前に判明する財政状況その他の資料を勘案して対応することが必要である。
7ユ国企第七号
平成七年八月九日
文部大臣 殿
日本ユネスコ国内委員会会長
IEPは何ですか?
我が国が第二八回ユネスコ総会においてユネスコ第四次中期戦略(一九九六―二〇〇一年)案及び一九九六―九七年事業・予算案に関して取るべき態度について(答申)
標記のことに関する諮問に対し、日本ユネスコ国内委員会は、左記に掲げる諸点に留意して適切に対処すべきである旨答申します。
一 基本的態度
(一) ユネスコに対する基本的な考え方
[cir1 ] ユネスコをめぐる世界の情勢とユネスコの役割
ア 世界の相互依存関係の深まり、科学技術、コミュニケーション手段の発達と相まって国際協力の可能性が進展し、それに伴い、国際機関の役割が増大している。
イ 東西冷戦の終結が平和、民主主義の進展、人権擁護の進展の可能性をもたらす一方、民族対立、地域紛争が激化している。
ウ 科学技術、経済力における南北格差の拡大の中で、特に発展途上国では人口問題、貧困、飢餓、非識字等の問題が深刻になっている。
エ 地球温暖化、砂漠化、オゾン層の破壊等の地球的規模の環境問題が進行している。
オ 発展途上国、旧ソ連・東欧圏における社会経済上の混乱からの回復と改革の必要性が増大している。
[cir2 ] このような変動する諸情勢及び来るべき二一世紀に柔軟に対応するため、ユネスコは、知的協力機関としての機能をより重視し、各種知的フォーラムの成果の活用、事業の精選・集中、機構の改革、分権化の促進等に積極的かつ迅速に取り組んでいくことが必要である。
[cir3 ] ユネスコは、事業実施に当たって、その権能の範囲において、必要に応じ関係国連機関との連携を保ちつつ、イニシアティブを発揮し、積極的に活動すべきである。
(二) 第四次中期戦略(一九九六―二〇〇一年)案及び一九九六―九七年事業・予算案について
[cir1 ] 目標
中期戦略では、知的協力機関としての機能を強化する方針が示されている点を評価する。特に、知的フォーラムの機能強化、知識の発展、移転・共有への貢献及び各国の人的資源開発のためのネットワーク形成・強化を支持する。
[cir2 ] 指針
中期戦略の指針として、地域及び特定集団国のニーズへの配慮、学際性、評価、集中、精選化、事業実施の手順と手法の見直しが明記されていることを支持する。特に手順と手法の見直しは、事業の効果・効率を高めるだけでなく、財政管理に直接つながる重要な事項として、今後重視されるべきである。
[cir3 ] 分権化
分権化、特に地域事務所への人材及び資金の移転は、地域及び特定グループ国のニーズに対応するために必要不可欠であり、実質的な権限の委譲と併せて、引き続き推進すべきである。その観点から、次期事業年度で地域事務所の職員ポスト数や事業費が拡大することを評価する。さらに、優秀なスタッフの本部との間の積極的な交流を期待する。
小規模事務所の設置に当たっては、明確な設置理由があり、かつ事務所として機能するための最小限の職員構成を確保できることが必要である。また、一人事務所についても、どのような具体的成果を挙げるための事務所であるのか、設置理由が明確にされるべきである。これらの条件が満たされない場合は、小規模事務所や一人事務所の運営が非効率になる可能性があるので、設置すべきでないと考える。また、前記観点から、既存の小規模事務所及び一人事務所を重点的に評価活動の対象とすべきである。
[cir4 ] 優先分野
最貧国、アフリカ、女性、青少年など逼迫したニーズを有するターゲット・グループに優先順位を置くことを支持する。特に、学校からのドロップアウト、ストリート・チルドレン、薬物乱用などに関連して、先進国と発展途上国に共通の問題であり、全世界的に協力して取り組むべき課題として「青少年」を新たに加えたことを評価する。ただし、集中・精選化の観点から、優先分野はこれ以上増やすべきでない。
[cir5 ] 財務・管理部門
ゼロシーリングの継続は、現在ユネスコの財政事情にかんがみ、引き続き重要である。また、新規事業に対する予算は、事業のスクラップ・アンド・ビルド又は事業実施の手順・手法の見直しにより捻出すべきである。
なお、総会で承認された事業計画と各事業への予算配分は最大限尊重されるべきである。また、予算の流用により対応すべき状況等が生じた場合は、原則として、あらかじめ執行委員会の承認を得るべきである。
[cir6 ] 事業計画の構成
四つの主要事業領域と二つの横断・学際的プロジェクトから成る事業構成は、事業の集中・精選化に向けた事業領域の再構成の観点から満足いくものである。ただし、横断・学際的プロジェクトの実施において、セクター横断的な協力及び関係国連機関等の外部機関との協力が十分確保されるべきである。
二 各主要事業領域別対応
(一) 教育
[cir1 ] 総論
教育は、基本的人権の一つであり、ユネスコが従来から予算配分、職員配置のいずれにおいても最も重視してきた分野である。今後とも、諸国民、民族が平和を実現し、環境と調和のとれた持続可能な発展を遂げていく上で教育の果たす役割は極めて重要である。このことから、本事業・予算案においても教育の事業領域に優先度を置いていることを評価するものである。
ユネスコの役割は加盟国の内生的発展能力の向上を側面から支援することにあり、教育事業の実施に当たっては、アジア・太平洋地域教育開発計画(APEID)や教育の完全普及に関するアジア・太平洋地域事業計画(APPEAL)などの地域ネットワークを活用して、経験及び知識を交換、移転、共有する事業、特に人材養成、教材の共同製作など、具体的、実践的な効果が期待される事業を重視すべきである。
[cir2 ] 各論
ア 生涯教育
先進国、発展途上国を問わず、社会・経済が急激な変化を遂げつつある現在の状況において、各人が生涯にわたって学習し、自己の向上を図る機会を整備することは、個人及び社会の発展にとって極めて重要である。
我が国においても、生涯学習の理念に基づいて、学校教育及び学校外教育の両面にわたり教育改革を推進しているところであり、ユネスコが「万人のための生涯教育」の推進を本中期戦略案及び事業・予算案の基本理念としていることを支持する。
また、アジア・太平洋地域において「万人のための生涯教育」をより一層推進していくため、アジア・太平洋地域中央事務所(PROAP)の事務体制の充実・強化を図るとともに、この分野における地域協力事業を充実する方策等について検討すべきと考える。
イ 識字教育
基礎教育へのアクセスの拡充及び質の改善は「万人のための生涯教育」の基礎となるものであり、特に識字教育の推進は、ユネスコとして取り組むべき優先課題として位置付けられるべきである。
我が国は、一九九〇年の国際識字年以来毎年アジア・太平洋地域の識字教育のために信託基金を拠出し、識字教材の開発及び識字教育指導者の養成事業等を実施している。さらに、平成六年度からは、女性への識字の普及を目的として、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)において、内外の機関、特に、発展途上国のNGOの協力を得て、「女性のための識字教育モデルセンター」を設置・運営する事業を継続している。
また、日本ユネスコ協会連盟が実施している「世界寺子屋運動」は、発展途上国における識字の普及に多大な貢献を果たしており、これらの民間ユネスコ運動を通じた普及活動は、ユネスコへの協力事業として極めて重要である。
識字教育は、ユネスコの独自性の確保及びビジビリティ(可視性)の向上につながるものと考えられ、今後とも重点的に推進すべきである。
雰囲気のレッスン·プランのグレード5の層は何ですか
ウ 職業技術教育
社会開発のためには、社会・経済のニーズに適切に対応し、かつ普通教育とバランスのとれた職業技術教育を推進することが重要である。
この意味で、加盟国間の情報・経験の交流を促進するための国際ネットワークの構築を目標とする職業技術教育国際事業(UNEVOC)を一層推進すべきであると考える。
エ 高等教育
世界的な社会経済状況の急激な変化に応じた高等教育の改革が重要である。また、高等教育における人的交流の促進及び発展途上国の高等教育の質の向上を図る観点から、ユネスコ講座やUNITWIN事業の一層の推進を支持する。
オ 平和、人権、民主主義、寛容及び国際理解のための教育
「平和の文化」を推進する方策の一環として、ユネスコが平和、人権、民主主義、寛容及び国際理解のための教育を推進しようとしていることを支持する。
我が国は、一九七四年の「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」に沿って、学校教育及び学校外教育において、平和、人権、民主主義、寛容及び国際理解のための教育を含む、いわゆる「国際教育」を推進しており、ユネスコにおいても「国際教育」のより一層の推進を図るべきである。
なお、執行委員会でアジア諸国から提起された「価値教育」などの必要性についても、その明確な定義の確認に努めつつ、「平和の文化」を推進する方策における位置づけを検討すべきと考える。
カ 環境・人口教育と開発のための情報
分野横断的・学際的プロジェクトとして、関係国連諸機関、特にUNEP(国連環境計画)、UNFPA(国連人口基金)及びWHO(世界保健機関)との協力に重点を置きつつ、「環境・人口教育と開発のための情報」事業を推進することを支持する。
特に、今日、世界的な脅威となっているエイズについては、未だその特効薬も開発されていない状況であり、感染予防のための教育が唯一の有効な予防手段であると言える。我が国は、平成六年度からユネスコに対しエイズ教育信託基金を拠出し、エイズ教育用教材の開発やエイズ教育要員の研修等に協力してきているところ、その円滑な実施と成果の普及が重要と考える。
(二) 自然科学
[cir1 ] 総論
ユネスコの自然科学事業は、地球規模の環境問題を解決し、先進国、発展途上国を問わず持続可能な発展を進める上で非常に大きな貢献を果たしてきたものと評価し、今後も一層の発展を期待するものである。
本中期戦略案及び事業・予算案では従来の自然科学と人文・社会科学とを「科学」として一つの事業領域にまとめることが提案されているが、これは、各専門分野の連携を深め、世界的諸課題に総合的・横断的に対応する上で、意欲的かつ挑戦的な取組であるとして評価できる。また、「科学」領域の統合とともに、都市や沿岸域の問題など、学際的な枠組みが設定してあることも注目に値する。その際、各専門分野の特性を十分に踏まえつつ、それらを超えた取組がなされることを期待する。
[cir2 ] 各論
ア 基礎科学・工学
基礎的な科学・工学の知識を広く普及することは、より高度な研究開発を行うための基礎である人材育成の観点から重要であり、UNIWINやユネスコ講座を活用した高等教育レベルの基礎科学・工学の推進を評価する。ただし、アジア・太平洋地域においては、従来から学術交流や留学生交流等により、基礎的な知識の普及を行っており、量的拡大のみを目指すのではなく、その質の確保に努めるべきである。
イ 地球(環境)科学
ユネスコの自然科学事業は、従来から、科学技術の発展、地球環境問題の科学的解明を通じて、地球環境とその社会経済的影響、持続可能な発展に直接関与する重要な事業である。特に、近年、国際環境開発会議(UNCED)のフォローアップの中心的な役割を果たす機関として、その重要性はますます増大している。この観点から、UNCEDのフォローアップへの取組の一つとして、政府間海洋委員会(IOC)、人間と生物圏(MAB)計画、国際水文学計画(IHP)等の政府間事業の協力・連携の強化を支持するとともに、各事業における共同研究・調査、教育訓練活動を一層推進すべきである。その際、地球環境問題は、自然科学的アプローチだけでなく、人文・社会科学的観点からのアプローチも不可欠な問題であることを深く認識した取組を進めるべきであ� ��。
・政府間海洋学委員会(IOC)事業
IOCは海洋学に関する国際的な機関として、従来から行っている世界海洋観測システム(GOOS)や教育・訓練活動をさらに推進することが重要である。特に、近年、教育・訓練活動に関しては、共同研究的な側面を重視した質の高いものが求められている点に留意すべきである。
また、IOCはUNCEDのフォローアップや国連海洋法条約の執行機関として新たな役割を課せられており、それに対応するためにはIOCの機能強化が重要な課題である。なお、機能強化についてはIOCのautonomyが長く議論されているところ、アカウンタビリティを十分に確保した上で、IOCのautonomyを実現することが重要である。
・人間と生物圏(MAB)事業
天然資源の保存と持続可能な管理の国際的・地域的協力を推進するため、地域的・国内的なMAB事業への取組に高いプライオリティが付されていることを支持する。特に、生物多様性条約の発効を踏まえ、その実現に向けて、DIVERSITASと協力しつつMAB事業への取組を行うことを評価する。
・国際水文学計画(IHP)事業
地球規模の気候変動や人口増加との関連で、水資源の開発・保全・管理が重視されており、この方向性を支持する。また、FRIEND (Flow Regimes from International Experimental and Network Data Sets)のようなデータ・ネットワークを各地域ごとに開発し、将来的に世界的な観測システムを構築することが提案されており、これを支持する。なお、これと関連して、測地学審議会において提言されたGAME(アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画)のようなアジア地域を中心とした国際プロジェクトの成果を活かして、IHP事業を推進していくことが重要である。
(三) 人文・社会科学
[cir1 ] 総論
人文・社会科学は、冷戦終結後の新たな世界のパラダイム構築や社会問題の解決に向けて示唆を与え、人間性の理解、国際的な相互理解を進めるものとして、その役割への期待が高まっている。
[cir2 ] 各論
ア 社会変容のマネジメント(MOST)事業
MOST事業は、社会科学分野の中核的な事業として、着実に発展しており、セミナーの開催による事業の普及、各地域の問題意識の把握など事務局の努力を評価する。また、MOST事業を通じた社会科学のクリアリングハウス機能の強化などMOST事業の果たすべき役割は大きく、ユネスコ事業としてプライオリティを付与されるべきである。
(四) 文化
[cir1 ] 総論
世界各国の伝統的な文化を保存・継承するとともに、創造的な文化活動の振興を図り、文化の独自性を豊にし、また、その交流を図ることは、世界の文化や社会経済の発展及び平和の醸成を図る上で極めて意議深いことである。
ユネスコは、この分野において、一般の人になじみやすく、かつ、ビジビリティ(可視性)の高い事業を重点的に行うべきである。
[cir2 ] 各論
ア 世界文化発展の一〇年
「世界文化発展の一〇年」(一九八八―九七年)については、これまでに「一〇年」の枠組み内で行われた事業に関し適切な評価を行うとともに、世界各国に影響を与えるような事業で開発の文化的側面を重視したものを精選して実施することを通して、広く「一〇年」の意義の普及に努めることが必要である。
継続事業及び新規事業の実施に関し、二一世紀を見据えた長期的文化発展のための方策の確立とその実施のための基本的諸条件の整備について検討する必要がある。
また、「文化と開発世界委員会」については、一九九三年以来、「文化と開発に関する世界レポート」をまとめるための活動を行ってきており、我が国は、同委員会の活動を評価しているところである。二一世紀の人類社会のための文化と開発に関する有意義なレポートの完成を期待する。
イ 文化遺産及び自然遺産の保存の振興
・世界遺産条約関連(ユネスコ世界遺産センター)
加盟国及び一般社会における世界遺産条約の普及並びに遺跡の体系的、継続的なモニタリングに関し加盟国を支援することが提案されているが、これを支持する。
・遺跡、記念物及び文化財の保護
加盟国による文化遺産保護活動の強化、天災時等における迅速な対応、武力紛争の際の文化財の保護のための条約(ハーグ条約)の継続的な見直し等が提案されているが、文化遺産の保存・保護に関する事業については、重要性、緊急性の高いものから順次実施していくべきである。また、その際、文化財の特質の解明、科学的手法による文化財の保存方法の研究・開発等に重点が置かれるべきである。
なお、我が国は、文化活動の中で特に文化遺産の保存・修復事業を重視しており、この事業に信託基金の拠出を行っているところである。
また、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)が、文化遺産広報事業としてネパールのカトマンズ渓谷及びパキスタンのモエンジョダロ遺跡のビデオを作成する等の活動を行っている。
さらに、文化遺産の保存・保護は、文化観光(cultural tourism)を通じて経済開発の重要な資源になり得るとの考え方を支持するものであるが、文化観光に関する事業の実施に当たっては、文化遺産の保護が一層推進されるよう、開発と保存の調和を図る観点を踏まえつつ、これを推進すべきである。
・無形文化遺産
少数言語の保護及び使用の奨励並びに伝統的及び民間伝承による表現形態の目録作成、それらの復活及び普及のための活動については、これを支持する。
また、無形文化財保存振興信託基金(一九九三年度から毎年二五万米ドルを拠出)により、これまでに、世界の消え行く少数言語地図の作成・発行、無形文化財保存・振興のための専門家会議の開催等を行っている。
ウ 創造及び文化産業
・芸術的創造
創作活動の推進、そのための芸術家の研修・再研修の奨励、芸術教育の促進、芸術に関する情報網・情報交換の強化等が提案されているが、これらを支持する。
・文化産業
発展途上国における開発を推進するため、文化産業(出版、映画、その他のメディア)の役割を強化する事業が提案されているが、これを支持するとともに、特に、発展途上国におけるこの分野での人材養成が重要であるので、研修事業の実施を支持する。
我が国では、ACCUが毎年「アジア・太平洋地域出版技術研修コース」を実施しており、発展途上国の人材養成事業として今後も継続が期待される。
エ 平和の文化
文化的多元性及び文化間対話の促進・強化についての提案がなされているが、文化間の相互理解を促進するため、国内外における対話を促進すること及び教育、研究、情報交換、規範設定等の活動を通じて平和、人権、民主主義を推進することを支持するものである。
なお、その際、平和、人権、民主主義のための教育を含めた「国際理解のための教育」をより一層推進すべきである。
(五) コミュニケーション
[cir1 ] 情報の自由な流れ
コミュニケーション分野の事業については、民主主義の基礎的な要件として「表現の自由」及び「情報の自由な流れ」の推進が重要であるとの考え方を支持する。
また、各国における独立した複数のメディアの設立促進も肝要である。
さらに、ラジオやテレビ等の番組における文化的・教育的側面の重視、スクリーン上の暴力の影響に関する国際的議論の奨励、メディアにおける表現及び意思決定への女性のアクセスの促進が提案されており、これらを支持する。
情報技術の革新的な進歩にかんがみ、総合情報計画(GIP)事業の強化が提案されており、これを支持する。
[cir2 ] コミュニケーション、情報及びインフォーマティクスにおける基盤整備
ア コミュニケーション分野での人材開発が重要であるとの考え方を支持する。
特に、研修事業等の実施を通じた発展途上国におけるこの分野での人材養成が重要である。
また、農村地域及び大都市における地域メディアの発展の促進が提案されているが、これを支持する。
イ 国際コミュニケーション開発計画(IPDC)については、事業・予算案において引き続き重視されていることを評価する。
ただし、事業の実施に当たっては、発展途上国のコミュニケーション能力の向上に向けて、限られた予算で十分な効果を挙げるように努めるべきである。
ウ 技術の発展により、地球規模のコミュニケーションが可能になったとの見方を支持するとともに、進歩の著しいコンピューターを利用した通信や衛星通信の活用をより一層進める必要がある。
エ また、消滅の危機に直面している、図書館等に保存されている貴重な収蔵品の保存、「世界の記憶」の保存のための事業を支持する。
オ 図書館等のサービスの近代化や公共図書館の充実に向けた事業の実施を支持する。
カ 政府間インフォーマティクス計画(IIP)において、専門家の養成が重要であるとの考え方を支持する。
(六) 普及活動
[cir1 ] 普及・広報活動
教育・科学・文化の国際協力を通じて平和と人類の福祉に貢献しようというユネスコにとって、普及活動は極めて重要である。科学技術の急激な発展や、最近の世界情勢の変化をも踏まえ、ユネスコは普及・広報活動を積極的に行うことにより、ビジビリティ(可視性)の向上に努めるべきである。
普及・広報活動を実施する際には、情報の受け手の立場に立って、ビデオ、書物や最新のメディアを使い分ける等きめ細かい効果的な方法を採用すべきである。
[cir2 ] 出版活動
ユネスコは、出版活動の一層の充実を図るべきである。
その際、出版物の読者を考慮し、読者のニーズに合わせるような工夫が必要である。
[cir3 ] ユネスコの協力団体を通じた普及活動
我が国においては、一九四七年に世界初のユネスコ協会が設立された経緯があり、各種図書の出版活動や識字教育に積極的に取り組んでいるユネスコ・アジア文化センター(ACCU)、「世界寺子屋運動」等で世界の識字の普及に多大な貢献を果たしている日本ユネスコ協会連盟や東アジアと東南アジアの文化と社会を対象とする調査研究活動を行っているユネスコ東アジア文化研究センター等の民間団体が活発に活動している。
ユネスコ活動においては、これらを含む世界中のユネスコ・クラブ等の協力団体を通じた普及活動を重視していくべきである。
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